詩/雨は降りしきる





   詩/雨は降りしきる



水滴が放つものの中に
一滴一滴の全ての記憶とやら
それらがあるとしたならば


葉先の滴り水は
なんの声を
秘かに持っていたのだろう


木々の根元に咲く草花の
一滴一滴の雫の行方は
誰が見ていたのだろう


人の生む小さな行動の中に
秘めたる声が重ねられながら
隠されていたとしたら


全てのものの位置は変わり
生み出されるはずのないもの
それらが幻となり
それらが現実となり
滴り落とす一滴はあるのだろう


気がつくことを恐れて
きみは何を見ていただろう


気がついていたのだろう
本当は    ずっと前から


誰もが秘めたる声を持ち
幾つもの声を生み出しては
いくけれど


知らないふりをしようとして
葉先の一滴一滴すらも
何処へ紛れ込むのかを知りつつ
視線の先を切り捨てる


木々の葉先の滴りは
何処へ流れていくのか
気がついていたのかい


草花に受け止められた雨水の
それらの滴りの全ては

木々の葉先から草花に落とされて


人は言うだろう
大きな木に守られる草花は
雨にも濡れずにいると


雨は降りしきる
横なぐりの雨は
全てのものに降りしきる


雨に濡れたのは
どちらだったのだろう


草花に隠れた秋の虫は
見ていることだろう


どちらにも同じように
雨は降りしきるのだと


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雨は降りしきる。
降りしきる雨は容赦なく大地に降り注ぐけれども、さぞや、大きな木の下に咲く草花は、大きな木の葉先ほどには濡れることすらないのだろう。

雨に濡れたのは、どちらだったのだろうか。

しかし、よく見ればわかる。

横なぐりの雨は降りしきる。
木の根元の下に咲く小さな草花にも、全ては同じように降りしきる。

大きな木に雨は降りしきる。

そうして、大きな木の雨の滴りは葉先に溜まり、それらの全ての滴りは根元の草花に流れていくのだと。

草花の上には、大きな木の溜まり水すらも降り落とされ、さらに横なぐりの雨は降りしきる。

そうして雨に濡れたのは、どちらだったのだろうか。

立ち位置を変えてみれば、どちらにも同じように雨は降りしきるのだと。

人もまた、同じことであるのかもしれない。
周りから見た立ち位置とは、別のものが見えてくる場合すらもあると。

全てのものの立ち位置を変えてしまえば、変わりゆくものすらあると。

全ては同じように、雨は降りしきるのだと。

どちらにも同じように、その雨は降りしきるのだということが。






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【 水の琴 】鏡乃 琴禰

【 水の琴 】詩集とエッセイ 【 詩人/鏡乃 琴禰 】 《 かがみの・ことね 》

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